Department of LABORATORY MEDICINE

 就任10年目のご挨拶
栁原克紀教授
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 病態解析・診断学分野 教授
長崎大学医学部 臨床検査医学 教授
 長崎大学病院 臨床検査科/検査部 部長
栁原 克紀


 2013年1月1日に長崎大学大学院 病態解析・診断学分野(臨床検査医学)の教授、および長崎大学病院検査部長を拝命し、9年が経過し、10年目を迎えています。教室の使命は、臨床検査医学に関する診療、教育、研究活動を行いながら、基礎医学と臨床医学の橋渡しや診療支援をすることと考え、邁進して参りました。長崎大学病院検査部は1961年に創立され、2021年で60周年になりました。記念誌を発行しましたので、ご供覧いただけますと幸いです。COVID-19のパンデミックでは、遺伝子(核酸)検査や抗原検査を用いた診断が重要であり、臨床検査の役割が再認識されました。安全・安心でかつ最適な医療を推進する上で、臨床検査は必須のものであると実感しています。以下に、今後の抱負を述べます。

2022年5月吉日


診 療
診療  私たちは患者さんを受け持つことはありませんが、検査を通じて患者さんを診ております。長崎大学病院検査部の責務は、大学病院で行われる高度先進医療を支え、診療に貢献することです。当院検査部は2017年3月16日にISO15189:2012の認定を取得しました。当院の検査データは国際的にも認められたことになります。2021年4月から、診療科として「臨床検査科」を標榜しており、新規臨床検査を患者さんに提供しやすくなりました。
 2019年12月に発生したCOVID-19は、パンデミックとして猛威を振るっています。長崎大学病院検査部では、全国に先駆けて2020年3月から新型コロナウイルスのPCR検査を開始しました。人員増員や自動機器の導入により体制を拡充し、1日1000件と医療機関としては全国最大規模となっています。2022年5月現在、PCR施行数は13万を超えており、医療機関としては日本一の検査数です。当院のみならず、長崎県内の医療機関からの検体を受託し、診療に貢献しています。また、クラスター発生時やスクリーニング検査等では、行政検査の支援を行っています。
 これから期待されることは、医師の働き方改革に対する支援と考えています。臨床検査技師ができる業務は積極的に取り組んで、医師の負担軽減を進めます。手始めに医師が施行していた神経伝導検査を、本年5月から検査部で開始します。

教 育
教育  卒前教育;医学教育は単なる知識の習得ではなく、少ない基本的事項から深い洞察力を発揮できるかが重要になります。また、異常値がでるメカニズムを考え、病態が理解できるようになることを目指します。新しい検査も将来的に重要になりますので、それらに関する情報も提供します。臨床実習では、検査を実際に行わせ、検査の意義について深く理解できるように努めます。個人的にも、2015年より医学科教務委員長を拝命し、学生教育にも深く関わっています。
 卒後教育;医学の進歩に伴い、検査の種類は膨大になってきており、検査データを幅広く解釈できる医師が必要とされています。臨床検査の専攻医に2名入っていますが、多くの臨床検査専門医を育成したいと考えております。

研 究
研究  感染症は全ての診療科に関連する疾患ですし、薬剤耐性菌による院内感染症は社会的に深刻な問題です。2017年からはAMED 「薬剤耐性菌対策に資する診断法・治療法等の開発研究」の研究代表者にご指名いただきました。国際的にも大変深刻な薬剤耐性菌の問題の解決に、少しでもお役に立てれば、と考えています。今まで取り組んできたHTLV-Iの研究で培った経験を踏まえ、ウイルス感染症の診断ならびに感染症に伴う発がんにも積極的に進めています。HTLV-I 感染からATL発症までの解析は、当教室でも長らく取り組んできたテーマであり、さらなる発展を期待しています。
 消化管や生殖器、皮膚組織などのマイクロバイオームが注目され、疾患の発生機序や予防に応用できることが分かってきました。いくつかの診療科とも既に共同研究を進めています。腸内細菌は感染症のみならず、がんや精神疾患とも関与も注目されており、重要な研究分野として注力していきます。