無症状及び軽症COVID-19患者に対する
 ネルフィナビルの有効性及び安全性を探索する
 ランダム化非盲検並行群間比較試験結果について

 長崎大学(学長:河野茂)の宮崎泰可客員教授らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を対象としたネルフィナビルの医師主導治験「無症状及び軽症COVID-19患者に対するネルフィナビルの有効性及び安全性を探索するランダム化非盲検並行群間比較試験」を実施しましたので結果についてお知らせします。

 長崎大学を含む全国11施設で、COVID-19患者を対象に、ネルフィナビルの抗ウイルス効果、臨床的有効性、及び安全性を評価するための多施設共同医師主導治験を実施しました。同意取得前3日以内に上下気道由来検体からPCR検査またはLAMP法で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が検出された無症状及び軽症COVID-19患者123名に対し、ネルフィナビルを投与する群と対症療法のみを行う群にランダムに振り分けて比較したところ、主要評価項目である登録時からウイルス陰性化までの日数についてネルフィナビル投与群と対症療法群の間に統計学的な有意差は認められず、主要評価項目を達成できませんでした。

研究背景

 ネルフィナビルは、HIVの複製に必要なプロテアーゼを阻害しウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬です。SARS-CoV-2に感染させた細胞実験、薬物濃度とSARS-CoV-2に対する抗ウイルス効果をもとにした数理モデルから、ネルフィナビルがSARS-CoV-2に対して高い抗ウイルス効果を示すことが明らかにされました※1。また、COVID-19患者のウイルス量動態変化の報告に基づいたシミュレーション結果から、ネルフィナビルのHIV感染症に対する既承認用法用量でSARS-CoV-2に対する抗ウイルス効果が期待できると予測されました※2
 これらの結果から、ネルフィナビルはCOVID-19に対する治療薬として期待できるものと考え、無症状および軽症COVID-19患者を対象とした、医師主導、多施設共同、対症療法群対照ランダム化非盲検並行群間比較試験を立案しました。

方法

 本研究では、SARS-CoV-2が陽性になった無症状及び軽症COVID-19患者(目標症例数120例)を対象として、対症療法とともにネルフィナビル服薬を行う群(ネルフィナビル群)と、対症療法のみを行う群(対症療法群)との間で、登録時からウイルス陰性化までの日数、酸素投与率等を比較し、ネルフィナビルの有効性を検討しました。また、安全性については、有害事象の検討を行いました。ネルフィナビルは1回750mg、1日3回、ウイルス陰性化が確認されるまで(最大14日間)経口投与することとしました。

結果

 2020年7月23日~2021年9月30日の組入れ期間に、123例の患者さんにご参加いただき、登録からウイルス陰性化までの日数中央値(95%信頼区間)は、ネルフィナビル群8.00日(7.00-12.00)、対症療法群8.00日(7.00-10.00)であり、ハザード比は0.82(95%信頼区間0.57-1.19、p=0.26)でした。つまり、ウイルス陰性化までの日数に対して、ネルフィナビル群と対症療法群に統計学的な有意差は認められませんでした。
 登録後に酸素投与が必要となった患者さんの割合は、ネルフィナビル群4.76%(3/63例)、対症療法群8.33%(5/60例)であり、ネルフィナビル群と対症療法群に違いは認められませんでした(信頼区間:-0.16, 0.08)。
 ネルフィナビル投与に関連する主な有害事象は、下痢31件(49.2%)、発疹11件(17.5%)でしたが、いずれも重症度が高度な事象ではなく、既に知られている有害事象でした。また、研究参加中に疾患及び有害事象による死亡例はありませんでした。
 今後さらに詳細な解析を進め、早期に論文発表を行ってまいります。

 本研究は、令和2年度厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構令和2年度「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する研究)における研究開発課題として実施しています。

参照
※1 Ohashi H, Watashi K, Saso W, Shionoya K, Iwanami S, Hirokawa T, Shirai T, Kanaya S, Ito Y, Kim KS, Nomura T, Suzuki T, Nishioka K, Ando S, Ejima K, Koizumi Y, Tanaka T, Aoki S, Kuramochi K, Suzuki T, Hashiguchi T, Maenaka K, Matano T, Muramatsu M, Saijo M, Aihara K, Iwami S, Takeda M, McKeating JA, Wakita1 T. Potential anti-COVID-19 agents, cepharanthine and nelfinavir, and their usage for combination treatment. iScience. 2021;24:102367.
※2 Liu Y, Yan LM, Wan L, Xiang TX, Le A, Liu JM, Peiris M, Poon LLM, Zhang W. Viral dynamics in mild and severe cases of COVID-19. Lancet Infect Dis. 2020;20:656–657.


ネルフィナビルの医師主導治験ホームページ

臨床研究実施計画・研究概要公開システム(Japan Registry of Clinical Trials)
 https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2071200023

[記事:総務課(広報・評価)]