臨床研究センター長 山本 弘史 |
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これまで日本の臨床研究は、薬事法に基づくGCP(Good Clinical Practice、臨床試験の実施に関する基準)に従って厳密に実施されてきた新医薬品等の治験と、法律の規制の受けない臨床試験との質の乖離が甚だしく、後者の治験以外については近年に種々の不適正な研究が社会問題化し、国際的にも信頼性が著しく揺らぐ事態になっていました。
新しい倫理指針は、この反省にたって、倫理審査の内容などが大幅に厳格なものとなりました。「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の主な改正点は次のとおりです。
(1) | 研究機関の長に総括的な監督義務、研究責任者の責務の明確化、研究者への教育・研修の充実等を規定 |
(2) | 試料・情報を収集し他の研究機関に提供するバンク・アーカイブに関して規定 |
(3) | 介入を伴う研究の事前登録および終了時の公表の義務 |
(4) | 倫理審査委員会の機能強化と審査の透明性確保に関して規定 |
(5) | インフォームド・コンセント等に関する規定の強化 |
(6) | 個人情報等に関する規定の充実 |
(7) | 利益相反(COI、Conflict of Interest)の管理に関する明確化 |
(8) | 研究に関する試料・情報等の保管義務に関して規定 |
(9) | 侵襲(軽微な侵襲を除く)を伴い、介入を行う研究のモニタリングおよび監査の義務化 (この部分は本年10月から実施) |
もうひとつの臨床研究をとりまく大きな流れの変化として、研究費に関する制度改革があります。2015年4月に、日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)が正式に発足し、現在は文部科学省、厚生労働省、経済産業省など各省がそれぞれに行っている臨床研究の研究費に関し、AMEDが研究開発予算を一元的に管理一元的に行い、医療イノベーションの推進に向けて、研究費に関して選択と集中が進むと予想されます。長崎大学病院として、この流れの中で、十分に力を発揮することが求められているといえます。
新医薬品等の治験については、2014年11月に再生医療等製品及び医療機器に関する制度改正がありましたが、医薬品の開発については、大きな制度的な変更はありませんでした。しかし、最近の国際的な新医薬品の開発動向の変化の影響は当院にも及んでいます。今後、治験の実施件数については、横ばいもしくは減少が予測される一方、治験の内容についてはそれを上回るピッチで高度化が進みつつあり、実質的な需要量は引き続き増加傾向にあるものと考えられます。このような状況の変化に対応しながら、当院は治験で果たすべき役割を今後とも積極的に担い続けます。
治験を推進していくために、学内での取組だけでなく、ながさき治験医療ネットワークの活動を通じて長崎県内の治験について医療機関との連携を図っておりますし、また、ネットワークの活動を通じて長崎県民のみなさまに治験に対する理解を深めていただく活動も行っております。
当センターは、長崎大学病院内で行われる臨床研究の支援、推進のために設置された組織です。病院内の研究者に対しては、研究計画の早い段階からご相談に対応した助言や情報提供を行います。他の医療機関や企業、市民の皆様から長崎大学病院の臨床研究に関するお問い合わせを頂いた場合にも、その内容に応じて対応いたします。ぜひ、病院内外から当センター積極的にコンタクトいただきたく思います。