長崎大学病院脳神経内科

ごあいさつ

新年の挨拶(平成29年1月)

長崎大学病院脳神経内科
教授 辻野 彰

 新年、明けましておめでとうございます。早くも脳神経内科が開設されて3年目に突入しました。脳神経内科のヴィジョンのMIT、Motivation・Innovation・Teamworkのうちチームワークがしっかりしてきたように思います。今年は入局者3名を迎えることができました。みなさんのチームワークの賜です。昨年発表しました5カ年計画も残すところ後3年、これから1年ごとにホップ・ステップ・ジャンプでステップアップして、目標達成を目指していきたいと思います。今年はホップとなりますが、まず最初に、我々を取り巻く世界状況から話を始めたいと思います。
 いよいよ2017年が始まりました。最近のニュースを見ていますと、世界はますます混沌としてきたように感じられます。近年、ありとあらゆるものがグローバリゼーションの波に押し流され、世界の地域や人々に持つものと持たざるものの格差社会が生じているようです。日本も例外ではありません。ワーキングプアが急増し、子供の貧困率は先進国の中で最悪レベルです。追い打ちをかけるように人口減少で高齢化社会を迎えて大都市と地方の地域格差は拡大するばかりです。身近なところで自分自身、研究面で都市部と地方の大学で、その組織力と資金力の格差が大きすぎて、持たざる者は夢や希望すら持てないのかと門前払いされているようにも感じます。ところが、昨年あたりからイギリスの国民投票によるEU離脱、アメリカ大統領選挙におけるトランプ氏の勝利など、反グローバリズムの勢いが増してナショナリズムが台頭してきました。このように混沌とした中でも、グローバリゼーションを推し進めてきた情報化社会の急速な発展は、留まるところを知りません。今後、情報化社会の基盤となるICT(Information and Communication Technology)、AI(人工知能)やIoT(ものとインターネット)の進化によって、世界の有り様は大きく変わっていくことでしょう。ただ、現時点では情報化社会の発展に人の知性が対応しきれず漂流しかかっているように見えます。これまでの思考のままでは解決できないのは明らかで、まだ発展途上の若い人たちの新しい思考が必要と思います。フランスの人類学者クロード・レヴィ=ストロースは、人類の歴史の中にそのヒントを見出しています。AIを使おうが使わまいが人にしかできないことは、インプットするデータを見出すことと、アウトプットされた結果を基にアイディアを生み出すことです。古代人も現代人も脳の解剖学的な構造は変わりません。そこで、レヴィ=ストロースは、古代人と現代人の違いはインプットするデータの種類だけで、古代人の、いわゆる「野生の思考」のインプットは「記号」、現代人の、いわゆる「科学的思考」のインプットは「概念」であると言っています。そして、これから困難な時代を乗り切るためには、多様性に富む野生の思考に時々回帰する必要を訴えています。将来うまくいけば、かつて新石器時代に農耕や牧畜が普及し、社会構造が変化し文明が始まったような革命が起こるかもしれません。
 ところで、我々の医局である脳神経内科は、地域における神経疾患診療の基幹病院として臨床をする役割を持ち、人々の健康と生命を守ることを使命としています。また、研究と教育が期待されていますが、若手に単に専門分野の知識を伝達することだけが目的ではありません。研究・教育こそが大学の本分なのです。
 では、一つの診療科にとって最低限レベルの研究とはなんでしょうか?私は症例報告や臨床研究の論文を書くことだと考えています。つまり、インプットするデータをつくることです。東大医科学研究所が導入したIBMの代表的なAI 、ワトソンには2000万もの医学論文がインプットされているそうです。繰り返しますが、インプットするデータを見出すことと、アウトプットされた結果を基にアイディアを生み出すことでは、人間にしかできないのです。
 一方、最低限レベルの教育とは、若手の皆さんをその専門分野で研究することができるようにすることがその目的だと考えています。すなわち、論文を書けるようにすることです。一つの課題が研究テーマとして成り立つためには、それがまだ解決されていない課題でなければなりません。当たり前のように繰り返される日々の臨床の中からwhat’s new?で新しいものを発見するのです。そのためには、既存の概念にとらわれず、自分の感受性を持ってあるがままに物事を捉える力が必要とされます。このように、研究活動とは、道のないところを切り拓いていく作業なのです。論文を書き続けたら何か景色が見えてくるのかもしれません。まずは、やってみなければわかりません。しかし、ここから見えてくるものは仕事だけでなく、必ず人生の役に立つはずです。若手のみなさんには、将来どこのポジションに就こうが、今までにない新しいものを生み出す能力が求められています。
 最後になりましたが、今年の最優先の目標は、学会発表したものはすべて年度内に論文にすることとします。毎週、医局会で進捗状況をチェックしたいと思います。学会発表には期限があり、内容がどうであろうと発表が終わればおしまいです。レビューワーから査読されアクセプトされてはじめて一つの研究の区切りとなります。みなさん、頑張っていきましょう。小さな目標ではありますが、今年もよろしくお願いいたします。

平成29年1月7日、会楽園にて。

変革の時、それは今(平成27年11月)

新年の挨拶(平成27年1月)

教授就任の挨拶(平成26年8月)

教授プロフィール

学歴、職歴、役職・資格

脳神経内科のVISION

脳神経内科の臨床・脳神経内科の研究
長崎大学病院脳神経内科新年会(平成27年1月10日)
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