2022年4月1日をもちまして、長崎大学病院地域連携児童思春期精神医学診療部(地域連携児童精神医学講座)の部長を拝命いたしました。私自身は、慶應義塾大学精神神経科学教室で精神医学の基礎について学び、その後、国立成育医療研究センター子どものこころ診療部、大阪府立精神医療センター児童思春期科の児童精神科病棟、金沢大学付属病院どものこころ診療科、国立精神神経医療研究センター精神保健研究所児童予防医学診療部などで児童精神医学を学んできました。これからよろしくお願い致します。
長崎大学医学部は1857年、ドイツ人医師ポンペが長崎に開設した医学伝習所が起源であります。全国で最も歴史のある医学部の一つと言えます。1901年医学伝習所と養生院(当時の病院)がいくつかの改称を経て、長崎医学専門学校となりました。長崎大学医学部精神神経科学教室は1907年に、長崎医学専門学校の内科から独立する形で開設されました。初代教授石田昇以下現在までその歴史が受け継がれてきました。教室は1979年に世界保健機関(WHO)の認定を受け、WHO協力施設として疫学研究に貢献し国際研究、とりわけ予防医学に力を入れてきました。
長崎大学病院地域児童思春期診療部は、児童精神科のニーズへの高まりを受け、2015年に、組織としては長崎大学病院精神科神経科内に開設されました。その後2022年に長崎大学病院本部内に設置される運びとなり現在に至ります。私たち児童思春期診療は、長崎大学医学部精神神経科学教室と綿密に連携しながら主に地域連携、人材育成の2つの使命を果たしてきました。地域連携では大学病院で診療を行う傍ら、県内の各医療機関や児童相談所との連携を強化し、ネットワーク構築に努めてきました。人材育成では、長崎県子どもの心のサポート医を今日までに延べ50名以上育成してきました。
発達障害や不登校の急増を考慮すると、今後も当診療部の果たす役割は大きいと考えております。人材育成面では、県内にある児童精神科病棟を有する長崎県精神医療センターをはじめ連携機関と連携して育成を図っていきます。2029年に計画されている新県立病院の児童精神科病棟で羽ばたく児童精神科医の育成を目標としてまいります。
離島を多く抱える長崎県では、他の地域以上に家族全体を診る視点は重要となります。また離島をはじめとしたへき地においても、他地域同様の高い水準の医療を提供する必要性があります。私たちは現在まで、遠隔診療、人工知能(AI)を用いた診断・支援、ロボット・VR(バーチャルリアリティー)を用いた支援の分野での研究成果を世界に発信してきました。今後も最新のテクノロジーを適宜活用しながら、離島をはじめとしたへき地医療の充実を進めてまいります。特に長崎大学からアバターを用いた遠隔診療支援に注力してまいります。
また長崎大学医学部保健学科は岩永竜一郎先生はじめ特に感覚統合の領域で全国的に有名であります。私たちは保健学科岩永研究室と定期的に勉強会を開き、発達障害はじめ児童精神科患者の運動、感覚の研究に励んでおります。さらに5歳児健診事業でも共同し、感覚・運動を中心とした評価に機械学習、ロボットといったテクノロジーを融合したスクリーニングを実践しております。今後も最新のテクノロジーを用いたスクリーニング、診断開発を進めてまいります。
私たちは大学人として、国際連携にも力を入れてまいります。現在まで米国バンダービルト大学のZachary Warren先生、Nilanjan Sarkar先生、Blythe Corbett先生、Vanags Chris先生の各グループとASDへのテクノロジーを用いた支援の分野、さらに最近では近年注目を集めているギフテッドの分野で連携を進めてきました。また仏国ロレーヌ大学Jerome Dinet先生のグループとも共同研究を進めてまいりました。今後も展開を広げ、地域医療に還元してまいります。
今後も子どものこころメンタルヘルス分野の発展に寄与するとともに,増加する患者のメンタルヘルス需要にも対応できる人材育成を目指してまいります。医学生、研修医、小児科医、精神科医の中で見学希望の方は御連絡ください。お待ちしております。