世界初、血友病患者に対して生体ドナーの
 右後区域グラフトを用いた生体肝移植を実施

本院移植・消化器外科の江口 晋教授らは、難病指定を受けている血友病患者に発生したC型肝硬変及び肝細胞がんに対し、生体ドナーの右後区域グラフト※1を用いた生体肝移植を2024年2月に行いました。
患者は術後47日目に無事に退院しています。

※1 移植される臓器のことをグラフトと呼びます。肝移植においては、肝臓は大きく4つの区域に分けることができ、右葉の外側部分を右後区域と言います(左図参照)。

血友病は、血を固めるための「血液凝固因子」が不足または欠乏している病気で、一度出血すると血が止まるまでに長い時間がかかり、急に大量に出血して貧血、出血性ショックを起こすこともあります。
また、肝移植は手術の中でも特に高侵襲で大量出血のリスクが高い手術であるため、血友病患者の肝移植は特に慎重な血液凝固管理が必要となります。
そこで、今回の手術においては、厚生労働研究班の血液製剤による重複感染患者の肝移植に関する研究(研究代表者:江口 晋/長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)の研究成果である血友病患者の正確な術中凝固能評価、術前術後管理方法を採用し、安全に手術を実施することができました。(分担研究者:麻酔科 原 哲也教授)

また、生体肝移植ではドナーの安全性を確保するために切除する肝臓の大きさには慎重な配慮が必要ですが、右後区域を用いることでドナーに安全な容積の肝臓を残すことができ、従来、右葉・左葉のみであった難治性肝疾患への移植肝選択に新たな選択肢を提示することができました。
生体ドナーは術後8日目に退院し、既に社会復帰されています。

江口教授は今回の手術成功の要因を「術前のドナー肝臓の血管系を含めたシミュレーション、レシピエントの周術期凝固管理、ハイレベル外科手技の洗練度、全てが揃っていたからだと思います。また厚生労働研究班で、他施設の先生方にもご協力いただきオールジャパンで取り組んできたのが大きかったと思います。」と語りました。

血友病患者のC型肝硬変及び肝細胞がんに対して、治療の選択肢として肝移植治療を安定して供給できることは血友病患者のQOLの向上に直結します。今回の事象が広く社会に認知され新たな術式として定着することが望まれます。

[記事:総務課(広報・評価)]