長崎大学病院脳神経内科

ごあいさつ

新年の挨拶(平成27年1月)

長崎大学病院脳神経内科
教授 辻野 彰

 新年あけましておめでとうございます。
 本日は、新年早々、お忙しい中、脳神経内科の新年会にお越しいただき誠に有難うございました。昨年は、教授就任におきまして、祝賀会をはじめ、皆様からたくさんのお祝いのお言葉を頂き、大変有難うございました。今から述べますあいさつでは、教授就任祝賀会では時間がなくて?公には?言えなかったことをお話しさせていただきます。
 これまでの神経グループの歴史を振り返りますと、高守正治先生(現 金沢大学神経内科名誉教授)、辻畑光弘先生(現 長崎北病院名誉院長)をはじめ、大学を背負ってこられた先生方は、すごく強者だらけで、どうして神経内科ができなかったのか?不思議なくらいです。高守先生のお言葉を借りれば、「玉が出て行った」、正確には出されたでしょうか?他類まれな個人の能力、人徳だけでは突破はできなかったのです。私(のような若輩者)が教授になりましたのは、まさしく、「啐啄の機」だったのかもしれません。幸運か不運かわかりませんが私に回ってきたと思っています。
 僭越ながら、これから私の個人的な話をさせていただきます。今から20年前、神経内科グループに入って、神経内科の流儀として、古来伝わってきた長崎の神経学というものを学びました。辻畑流とも言うべきでしょうか?そして、中村龍文先生(現 長崎国際大学教授)のもと、HAMで学位を取らせていただきました。その後、脳卒中を勉強するために国循に出て行こうと考えていましたが、長崎では期が熟していないと判断、一転、研究するためというか、一度は世界を見てみたいと思って、福留隆泰先生(現 川棚医療センター)から引き継いでメーヨークリニックに留学するチャンスを頂きました。メーヨークリニックの3年半は、神経接合部の神経生理学、分子生物学といった本物のニューロサイエンスというものを勉強させていただきました。快適で充実した留学生活からは程遠く、苦労したことしか覚えていませんが、臨床するにも研究するにも、しっかりとしたvisionを持った自立した組織が必要であることを痛切に感じました。言い換えれば、(私自身の)個人の力の限界を感じたのだと思います。
 現在、帰国して丸13年経ちます。教官となって4人の学位論文の指導をさせて頂きました。消化器内科を含めた最後の大講座制(第一内科)の中で、医局長を2年半させて頂き、得るものも多くありましたが、失うものも多い経験をさせていただきました。皆さんには大変ご迷惑をお掛けしたことと思います。
 そして、皆さんもご存じのとおり、今から8年前に大学病院で本格的に脳卒中診療を始めました。脳神経外科学教室の先生方の全面的なバックアップとともに、永田泉教授(現 小倉記念病院院長)には本物の脳卒中学を勉強させていただく機会を頂きました。捨てる神あれば拾う神あり、河野茂病院長(現 長崎大学理事)には脳卒中センターを作っていただきました。最終的には、長崎大学副学長の調漸先生、第一内科主任教授の川上純先生の後押しをいただいて現在に至ります。これまで、大きな壁にぶち当たったり、失敗したりする度に、ここにおられる諸先輩や同僚に励まされ、後輩の存在に希望の光を貰ってきました。ここに改めて深く感謝の意を表します。
 さて、ここに脳神経内科ができました。間違いなくここにいる若者が脳神経内科の将来を担います。これからは、組織の力を利用していただいて、一人一人が成長していくチャンスです。人は生まれたからには、体だけでなく頭も成長していく、すなわち学んでいくことは人として宿命です。成長していくためには、生物の進化と同じ、絶滅しない程度に上手にtry and error を絶え間なく繰り返していくことが不可欠です。兎にも角にもtry and errorが大切です。組織ができた理由は、そこにあると思います。失敗しても挫折しても、組織のvisionのもとに正しいと思う道を歩んでいる人は、後押ししていかなければなりませんし、救い上げたり、矯正したりしていくことも必要になるでしょう。どんな人であっても、人は力、人は財産です。
 そこで、脳神経内科として何をしなければならないか?組織として何ができて何ができないのか? まず理念としては、長崎大学病院の基本方針というものがありますが、皆さんご存知でしょうか?1.人間性を重視した患者本位の医療を実践する。2.世界水準の医療と研究開発を推進する。3.倫理性と科学性に基づいた医学・歯学教育を実践する。4.離島及び地域医療体制の充実に貢献する。5.医療の国際協力を推進する。
 できたばかりの診療科である脳神経内科は、まだ赤ちゃんです。すべて実践していこうとするのは無理です。まず、地域医療体制の充実に貢献することを最優先に目指したいと思います。私自身の座右の銘として次のような言葉があります。上善は水の如し。水は善く万物を利して争わず、衆人の憎む処に折る、ゆえに道に近し。脳卒中を中心とした神経救急と神経難病の診療体制の構築は、地域医療を充実させるためには必要不可欠です。みんな(他の大学病院)が好んでやらないようなこと(優先的にしないこと)ですが、多くの患者さんが望んでいることをすることは自然な流れです。低いところをしなやかに流れていく水は、やがて大きな大河となり、力強い流れとなっていくことでしょう。
 脳神経内科の大きなvisionとしては、ホームページにある通りです。目先の具体的な今年のvisionとしては、症例報告や研究成果など、学会報告したものは可能な限り、論文とすることです。日本語でも英語でもかまいません。形に残していくことを徹底していきたいと思います。今までの神経グループではなかなかできなかったことです。まずは身の丈にあったことを実行していきたいと思います。
 最後に一言。これから少なくとも5年から10年はかかると思いますが、西の果てから日本全国に向けて、神経内科の新しい形として、脳神経内科を発信していけるようにしたいと思います。子は親の背中を見て育つと言いますが、私が先頭に立って、急がずでも弛まずに腰を据えてじっくりと信念を曲げないでがんばって行きたいと思います。今後も何卒、ご指導・ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。
 以上を持ちまして2015年の新年のあいさつと代えさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。

2015年1月10日、ホテルニュー長崎にて。

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