利益相反(COI)について
なぜ臨床研究に係る利益相反マネジメントが重要なのか
1.医学系研究における利益相反(COI)とは?
 医学系研究の中でも、人を対象として行われる臨床研究を産学連携で行う場合、研究に携わる者には特に配慮が必要となります。医療従事者は、研究対象者の生命、安全、人権を守るという観点から臨床研究を実施する職業上の責任があります。一方、研究者として資金提供者である製薬企業等との金銭的なかかわりをもつ場面が多く、一定の経済的利益関係が発生します。同一人において発生する経済的利益関係と職業上の責任の間の対立は、単に形式的のみならず、時には実質的にも相反し、対立する場面が生じます。一人の研究者をめぐって発生するこのような責任と経済的利益関係との間の対立・抵触関係がいわゆる利益相反(COI: Conflicts Of Interest)と呼ばれる状態です。資金提供者となる製薬企業等との利益相反状態が深刻になればなるほど、研究対象者の人権や生命の安全が損なわれることが起こりうると言えますし、研究の方法やデータ解析あるいは結果の解釈が歪められるおそれも生じます。また、適切な研究方法から得られた信頼性の高い研究結果であるにもかかわらず、公正な評価が得られない状況も起こりえます。
2.産学連携による臨床研究を行う上で利益相反(COI)の観点から研究者が遵守すべきこと
 上で述べたような責任と経済的利益関係の対立が現実に起こる場合、医療専門家である研究者は研究対象者の人権擁護を最優先し、研究対象者のために最善を尽くさなければなりません。したがって、資金提供者の利益のために、または自分の利益維持のために研究の成果、結論に歪みがあるということはあってはならず、社会的にも許されることではありません。研究者としては、透明性の確保に努め、社会から疑念を受けないように常に配慮し、慎重な対応により信頼を確保することが必要です。厚生労働省の「⼈を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」では、研究責任者は、当該研究に係る利益相反の状況を把握し、研究計画書に記載しなければならないとされており、研究者等は、研究計画書に記載された利益相反に関する状況を、インフォームド・コンセントを受ける手続きにおいて研究対象者等に説明しなければならないとされています。また、2000年のヘルシンキ宣言の改訂においても、当該研究に関連して起こり得る利益相反について、研究計画書に記載すること、インフォームド・コンセントを求める際に十分に説明すること、また刊行物発表の際にCOIを開示することが盛り込まれました。
3.社会の情勢と利益相反(COI)マネジメントの必要性
 医学系研究に関するCOIをめぐっては、2008年ごろより海外の製薬協業界団体、製薬企業による医療関係者に対する支払いの透明性、情報開示が進み、国際的な動きとなっていきました。2010年3月、医学系研究におけるCOIの開示を義務付ける、医療保険改革法のサンシャイン条項が成立しました。これにより、製薬企業や医療機器メーカーは、医師や大学等との産学連携活動に基づく利益給与等の状況を公開し、申告漏れについては罰則が生じることとなりました。日本でも文部科学省の主導で検討がなされ、2008年文部科学省「臨床研究の利益相反ポリシー策定に関するガイドライン」厚生労働省「厚生労働科学研究における利益相反の管理に関する指針」が発表されたことで、大学等のCOIマネジメント規則、ポリシー策定の整備が進みました。また、2011年に日本製薬工業が「企業活動と医療機関の関係の透明性ガイドライン」を発表してホームページによる情報公開を各企業に求めると、それを契機に、各学会でもCOIに関する指針を策定しており、COIマネジメント体制の構築に向けてわが国のCOIマネジメントを取り巻く状況は大きく変わってきています。
 本院でも多くの産学連携による臨床研究が実施されており、COIが生じる可能性も高くなっています。COIは、産学連携活動等に伴って日常的に生じるものであり、法令違反とは異なります。そのためCOIに対して厳しく対応し、それを一切認めないとすると産学連携活動を禁止することになりかねません。COIマネジメントは、決して産学連携活動を抑制することが目的ではありません。むしろ、COIマネジメントを十分に、かつ、適正に実施することにより、COIによる弊害を未然に防ぎ、本院に対する社会一般の信頼を確保し、それによって産学連携の健全な推進を期待したものです。

 臨床研究におけるCOIやデータ不正に関する事件が相次いで報道される中、大学病院としての社会貢献という使命にしたがって産学連携を行うことで、社会からCOIに関する疑念を持たれるような状況が生じるかもしれません。そのような指摘に対して病院が体外的な説明を行うことで、研究者個人としての説明責任を軽減することができます。そのためにも、研究者と関連企業等との経済的利益関係に関する情報を病院としても把握しておく必要があります。
  
 COIマネジメントは、研究者を守るという要素を多分に持っています。臨床研究に関わる研究者たちが安心して産学連携活動に取り組むことができるように、本院の産学連携活動を支える基盤として、責任を持ってマネジメントする必要があると考えます。
4.長崎大学病院における臨床研究に係る利益相反(COI)マネジメント体制について
 長崎大学では、職員等が臨床研究に係る産学連携活動を行う場合に、教職員が安心して取り組める環境づくりを目的として、臨床研究の利益相反に関するルールの整備やシステム等の環境を整えるために利益相反ポリシーを定め、内外に明示しています。
pin 長崎大学病院利益相反審査委員会規定 (学内限定) PDF PDF-139KB
pin 長崎大学利益相反マネジメントポリシー   PDF PDF-201KB
pin 長崎大学における臨床研究に係る利益相反ポリシー   PDF PDF-152KB
pin 長崎大学における臨床研究に係る利益相反管理指針 (学内限定) PDF PDF-218KB

(1) 開示対象者
 
研究者等
研究責任者及び研究の実施に携わる関係者(コーディネーター等の研究協力者は含まない)
①に規定する者の配偶者及び生計を一つにする扶養家族
その他、臨床研究利益相反審査委員会が必要と判断した者

(2) 開示すべき経済的な利益(金銭的情報の種類・範囲)について
 
経済的利益
知的財産権の取得、株式または新株予約権の取得【未公開株を含む】、
金銭収入(実施料収入、兼業報酬、寄付金等を含む)、借入、役務提供の受領 等
経営関与による経済的利益
役員、顧問就任 等

(3) 利益相反審査自己申告書の提出
  臨床研究を実施しようとする職員等(研究者等)は、「長崎大学における臨床研究に係る利益相反管理指針」に基づき、臨床研究に係る利益相反の状況について、「利益相反審査自己申告書」により利益相反審査委員会へ申告しなければなりません。
なお、自己申告書は、研究者一人につき1部必要となります。ただし、申告内容が同じ研究者・分担者については、1枚にまとめて申告することができます。

<提出先>
 利益相反審査委員会事務局:病院総務課(研究倫理)

<提出時期と機会>
臨床研究を実施しようとするとき
研究者等は、臨床研究を行う場合には、申告書を作成のうえ、研究ごとに「研究計画書」とともに審査委員会に提出してください。

※研究者等は、臨床応用計画を行う場合にも、申告書を作成のうえ、「臨床応用計画書」とともに審査委員会に提出してください。

※研究者等は、出版・公表原稿を申請する場合にも、申告書を作成のうえ、「原稿のコピー」とともに審査委員会に提出してください。
臨床研究の研究計画等を変更しようとするとき
研究者等は、提出した申告書の内容に変更があった場合は、「研究等変更申請書」とともに、審査委員会に申告書を提出してください。
複数の年度を通して臨床研究が継続中である場合
研究者等は、「研究等実施状況報告書」とともに、年に1回利益相反の状況を申告書にて報告してください。
厚生労働科学研究費の交付申請をするとき
各研究者は、厚生労働科学研究費交付申請書提出時までに、COI委員会等に対して「経済的な利益関係」について報告した上で、当該研究のCOIの審査について申し出る義務があります。
審査委員会に要求されたとき

研究関係者も審査委員会の要求に応じて、申告書により随時(就任時等)報告を行ってください。


<申告書の様式>
pin 利益相反審査自己申告書 (学内限定) PDF PDF-119KB

(4) 委員会の開催日
  原則として毎月第3月曜日

(5) 申告書提出期限
  委員会開催日の3週間前の水曜日17:00締切

※研究計画書等の添付書類に不備がある場合は受付されませんのでご注意ください。


(6) 審査結果
  審査委員会は、申告書に添付された「研究計画書」等に照らし合わせて適正な実施が可能かどうかについて審議し、「利益相反審議結果通知書」にて通知します。

(7) 勧告及び監査
 
審査委員会が審議の結果必要と認めた場合は、対象者に利益相反に関する指導・勧告を行います。
対象者は、審査委員会の求めに応じて、前項の指導・勧告に対する是正結果を報告しなければなりません。
審査委員会の決定に対して不服のある者は、審査委員会に対し再度審議を求めることができます。審査委員会は、再度審議を行い、所属長が、審査委員会と協議の上、決定します。
臨床研究に対する指導・勧告には、多施設での実施、実施者の費用による監査等の導入も含まれます。

(8) 研究計画書」「同意説明文書」へのCOIに関する記載
  「指針」によると、研究責任者は、当該研究に係る利益相反の状況を把握し研究計画書に記載しなければならないとされています。また、研究者等は、研究計画書に記載された利益相反に関する状況を、インフォームド・コンセントを受ける手続きにおいて研究対象者等に説明しなければならないとされています。