十二指腸腫瘍に対する再生医療を用いた
 新規手術術式の開発

 長崎大学とテルモ株式会社の共同研究講座である「消化器再生医療学講座」の金高賢悟教授らの研究グループは患者自身の細胞を用いて作製する「細胞シート」の技術を十二指腸腫瘍の手術に応用する新規手術術式を開発、2021年4月より長崎大学病院にて医師主導治験を行います。

 早期に発見された十二指腸がんは、胃がんや大腸がんと同様に内視鏡下粘膜下層剥離術(ESD)で取り除くことが出来るようになりました。しかし、十二指腸は腸管が狭く屈曲しているうえに、消化管壁が非常に薄く、更に刺激の強い胆汁や膵液に暴露されるという特性から最大30%と他の消化管に比べて高確率で術後穿孔を来すことが問題点として挙げられます。穿孔が起きると、消化酵素を含む胆汁や膵液が腹腔内に広がり腹膜炎などを発症するため、緊急手術や十二指腸を切除する必要があるなど、患者さんの負担が大きくなります。

 金高教授らの研究グループは虚血性心疾患による重症心不全患者に対する再生医療等製品「ハートシート」を製造販売しているテルモ株式会社と共同で研究を続けてきました。脚の筋肉の細胞から作製した骨格筋芽細胞シートを十二指腸ESD後の腸管壁の外側に貼付することで、十二指腸ESD後の穿孔を予防可能であることをブタ実験で報告、患者さんの負担が少なくなるように腹腔鏡手術で細胞シートを移植するためのデバイスの開発も進めてきました。


 これらの成果を基にAMED(日本医療開発機構)の令和2年度再生医療実用化研究事業に採択され、2021年4月以降で医師主導治験を長崎大学病院で開始する予定で準備を進めてきました。十二指腸ESD適応となる表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍のうち、腫瘍径の大きいESD後穿孔のハイリスク患者を対象として十二指腸ESD後の遅発性穿孔の防止を目的にヒト(自家)骨格筋由来細胞シートを腹腔鏡下にてESD後漿膜側に移植する新規再生医療の医師主導治験を2021年4月~2023年3月31日に長崎大学病院で実施する予定です。

 長崎大学病院では、患者の口腔粘膜から作製された口腔粘膜上皮細胞シートを食道癌ESD後の潰瘍部に移植し術後狭窄を予防する臨床研究を行った実績がありますが、消化器外科領域に細胞シートを応用した再生医療研究は世界初の試みです。

[記事:総務課(広報・評価)]