新型コロナウイルス感染症の既感染者と未感染者に
 おけるワクチン接種前後の各種抗体価の推移について

 長崎大学病院検査部栁原克紀教授らの研究グループは、長崎大学病院新型コロナウイルス検査センターにおいて、新型コロナウイルス感染症に感染したことがある方(既感染者)とこれまで感染したことがない方(未感染者)を対象に、新型コロナウイルスワクチン(mRNAワクチン:ファイザー社)接種前後の血液中の抗体価を測定する研究を実施しています。測定には臨床検査室で測定することが可能な方法・機器を用いています(CLIA法・Alinity、Abbott Laboratories)。今回、中間結果を報告します。

研究の結果

 本研究では、既感染者49人と未感染者113人の方々のご協力をいただき、ワクチン接種前後における血液中の抗体価を測定しています。そのうち、4月30日までの測定データを解析した結果、
(1)2回のワクチン接種により、既感染者と未感染者のスパイクタンパクに対するIgG抗体は、感染予防に十分と考えられる程度まで上昇する(図1)。また、既感染者は1回のワクチン接種で、未感染者の2回目と同等の抗体価を示す。

図1.ワクチン接種前後のスパイクタンパクに対するIgG抗体の推移
(グラフは平均値±95%信頼区間を表示)

(2)ヌクレオカプシドタンパクに対する抗体はワクチン接種により変動しないため(図2)、ヌクレオカプシドに対する抗体によって既感染者と未感染者を判別できる可能性がある。

図2.ワクチン接種前後のヌクレオカプシドタンパクに対するIgG抗体の推移
(グラフは平均値±95%信頼区間を表示)

(3)基礎疾患等をもつ方や高齢の方においては、抗体価の上昇が比較的低い例がみられることがわかりました。

 この研究結果によって、様々な背景をもつ方におけるワクチンによる抗体価の推移が明らかになり、ワクチンの効果を推定することが可能となり、新型コロナウイルスの確実な克服につながることが期待されます。また、ワクチン接種後の抗体を測定することの有用性が示唆されます。
 本文献はプレプリントサーバーmedRxivに査読前論文として本邦でいち早く公開されています(https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.05.21.21257575v1.article-metrics)。
 ワクチンの効果としては、抗体価の上昇に加え、抗体の持続期間も評価する必要があるため、本研究では、最大約1年後まで抗体価の推移を観察します。

※抗体価
ウイルスなどの「抗原」に対して、リンパ球が生産した「抗体」の量がどれくらいか、という指標。
数値が高い方が、ウイルス(抗原)の細胞への感染を防ぐ作用が強いと考えられる。

研究の背景

 mRNAワクチンは新型コロナウイルスのスパイクタンパクに対する抗体を誘導しますが、ヌクレオカプシドタンパクなどの他の構成成分に対する抗体は誘導されません。一方、既感染者の方は、スパイクタンパクとヌクレオカプシドタンパクの両者に対する抗体を保有しています。そのような方は、ワクチン接種によりスパイクタンパクに対する抗体がさらに増強されると考えられています(図 3)。スパイクタンパクに対する IgG抗体は、中和抗体(ウイルスの細胞への侵入を防ぐ抗体)と相関することが明らかにされています。

図3.新型コロナウイルスの構造タンパク

(共同研究)
本研究はAMEDおよびアボットジャパン合同会社との共同研究契約に基づき実施されました

[記事:総務課(広報・評価)]